THE BEATNIKS COMEDY SHOW / ザ・ビートニクス　コメディーショー

不幸な思い出がある。
「婚約破棄」。
しかも、お笑いの仕事で。
企画ネタは江頭２：５０主演の「全裸ライダー」。
まさしく、全裸姿に赤マフラー１つのエガちゃんがバイクにまたがり、
奇声を上げながら昼間の公道を走りまくる。
ヘルメットには免許証が１枚。ぺたり。こんな内容。
若かりし頃のボクの作品。放送は没。ビデオでも没。モザイクをすれば・・
なんとか・・という返事も果敢にも蹴り、結局未公開。
人生の岐路を決める大切な時、ボクはこんな撮影現場を選択した。

立派だ！とほめてくれる人もごく少数いるかもしれないが・・・
普通に考えりゃ論外。箸にも棒にもかからないってこんな状態だと思う。
よく男と女の永遠のテーマの一つに「仕事を獲るか？恋愛を獲るか？」
という究極の選択があるか・・・果して「究極」なのだろうか？
　
丁度この頃だと思う。
本当に何もかも失ってしまったようで・・・
何をやってもため息ばかりついていた時期。
まさしくディープブルー。
もう、もう生きている価値はない男だとへこんでいた。
そんな時に何も考えず、恵比寿の街を歩いていたら、
同じ年齢のＴというディレクターと遭遇した。
　
「今から、ロケで撮ってきたテープをチェックすんだけど・・・
一緒に見てくれないかなぁ。」としつこく誘われた。
よりによってこんな時に・・・。
奇声の一つでもあげて逆方向にでも走ろうかと思ったが、
無理矢理引っ張って行かれた。

頭の中は「早く終わらないかなぁって・・・」もうそればっかり。
別に何一つ、大切な用事もないくせして、もう気持ちはイライラ。ムカムカ。
もう、こうなれば最悪・・・。
　
「しょうもないロケ素材が流れてきたら・・この３４インチのテレビ画面を叩
き割ったる！」「本棚倒したる！」「この、わけのわからんオブジェ壊したる！」
・・・とこちら臨戦態勢ＯＫ。
少しずつ頭の内側がカッカッするのが自分でもはっきりと感じ取れた。
　
その直後・・・・・・、大画面いっぱいにＴの尻の穴が。
　
びっくりした。
　
もう一回、見た。
やはり、Ｔの汚い尻。笑えないシワ。ゼットローションでピカピカ。
　
まわりを見渡すとＴはペンションのオーナーよろしくドリップ式コーヒーを
ボクのために作ってくれていた。再度、おそるおそる画面を見る。
　
どうやらＴは・・・何か？細かな作業をしているらしい。
　
「カメラが固定式なんで、こうするしか方法がなかったんだよ」とＴ。

どうやら、先ほどの最悪の映像は距離間を測るテストパターンであったらしい。
（何もそんな方法で確かめなくても・・・）

「そう、カリカリせずにここから見てよ！」とＴはボクをなだめにかかる。

わけがわからない。
しかし、テープは止まらない。
まずはＴがＳＭ嬢に正座をさせられ怒られているシーン。
しかも、丸刈りで。
数多くアダルトビデオを見てきたが、知人出演映像はこの時初めて見た。
言っておくが、このＴすでに結婚もし、妻のお腹の中には子供もいる立派な社会人。まぎれもない大人であった。
　
自然とボクの怒りもおさまるのがはっきりとわかった。
　
丸刈りの男はうれしそうな顔を演じているのか？
ペロペロと赤いエナメルのブーツをひたすら舐めている。

なぜか？（そんな所、舐めて何が気持ちいいの？）ってそんな事思わない。

そんな中、Ｔはさすがに少し恥ずかしそうな表情をしながら・・・
「このテープを編集して、ビデオチェーンで市販しょうと思うんだけど、
　一人きりだと客観的に見れない事ってあるでしょ。だから・・・」。
　
青ざめていく。ボクの頭の中が寒くて熱い。悪寒が走る。
市販？自ら編集？客観的に見れない事もあるでしょ。だから・・・。
マジか？Ｔ・・・！
　
さらに、画面はますますエキサイト。
入る！入る！尻の穴へ。どんどん入る！不思議な鉛筆けずりみたいに。
青ねぎ。青ねぎ。青ねぎ。
入るっていうか？さし込まれる。
　
なのに、Ｔは「申し訳ございません。」とうわずった声で敬語口調。
　
何も悪い事もしていないのに。平謝り。痛いのか？気持ちいいのか？
全く予想できない。史上最悪の映像である。
　
しかし、ボクは不覚にもこの映像で泣いてしまった。
なぜかは？今もって自分でも・・・わからない。
　
ただ、「仕事と恋愛どっちとる？」なんて事がどうでもいい事に思えた。
一気に数々の迷いがふっきれた。予期せぬ人生のいたずらに困惑した。
「イヤならやめればいい。好きならここ迄体を張って嫁や子供を食わせる
　奴だっているんだから・・。」すごい極端な体験から学んだボクの教訓。
いつの日か？このＴと仕事をし、心の奥底から
「男にしてやりたい！！」と心の中で誓った。
やはり、この仕事、かなり好きなよーだ。

その後、このＴとは音信不通。
どうしているのか？は現在は全くわからずじまい。
最後の部分、何かカッコつけているように思われるかもしれませんが・・
ボクの仕事というのは、「お祭り」の神輿かつぎ役。
お祭りイベントを予算に応じて企画する事はあっても、生涯神輿の上に乗って盛り上げる役どころではないんですね・・・。

今回、北郷をはじめ・・・「ビートニクス」のメンバーは全部で９名。
その昔、Ｔを「男にしたい！」と思いながら、結果できなかった思いを
なんとか、少しでもできれば、こんな幸せはないですね。

「欲をいえば・・・死ぬまでに一度でも素晴らしいお祭りに参加したい！」

担ぐ幸せ、担げる体力、それを可能にする気持ちいい人間関係。
どこまでいけるのか？不安でもあり楽しみでもあります。